自分や他人名義の通帳・キャッシュカードを譲り渡す行為。
犯罪収益移転防止法違反
1年以下の拘禁刑や100万円以下の罰金となる行為
- 自分や他人名義の通帳・キャッシュカードを譲り受ける行為。
- ネットバンキングのログインID・パスワードの情報を譲り渡す行為。
- ネットバンキングのログインID・パスワードの情報を譲り受ける行為。
- 他人に譲り渡す目的で口座を開設する行為。
詐欺罪
10年以下の拘禁刑となる行為
- 他人・架空名義の口座を開設する行為。
示談の注意点
犯罪収益移転防止法の違反する銀行預金口座の売買や譲り渡しについて、直接の被害者ではないのですが、その銀行預金口座が、特殊詐欺に利用されるなど、間接的な被害が生じることが多くあります。
自分名義の銀行預金口座が特殊詐欺に利用され、いわゆる出し子という特殊詐欺グループの一員によって引き出しをした場合でも、不当利得返還請求の対象となり、預金口座の名義人が詐欺被害者へ返金の義務を負う場合が多いと考えられます。
なぜならば、民事上は、自分名義の口座に法律上の原因がなく(正当な理由なく)振り込みがされているため、口座名義人に「利得」があった認定されることが多いためです(民法703条、704条)。
預金口座の特殊詐欺利用と自己破産
特殊詐欺被害の金額は1件当たり数百万から数千万に及ぶ場合もあります。そのため、複数の特殊詐欺被害者から口座を譲渡してしまった人の返済能力を大きく超える請求を受ける場合があります。
その場合には、自己破産も念頭に示談を検討する必要があります。
しかし、「悪意の不法行為」については破産をしても支払い義務を免れることが出来ない非免責債権とされているため、銀行預金口座の売買や譲渡時に特殊詐欺に利用されることの認識の有無(※1)が問題となる場合があります。
※1 悪意の不法行為の意味
破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権(破産法253条1項2号)。
「悪意」とは、単なる故意(不法行為によって損害を加える認識・認容)ではなく、積極的な害意と考えられています。
なお、架空取引の限度で共謀している事案についてですが、損害についての認識の有無について各人毎に個別に判断をして、免責を認めた裁判例として横浜地裁川崎支部平成30年 4月19日判決があります。
この裁判例の考え方からすれば、特殊詐欺の実行犯は詐欺の認識を有しており破産によって被害賠償を免れることが出来ないのですが、一方で、銀行口座を譲渡した人に口座を詐欺に使われる認識や認識できるような具体的な可能性がなかったとすれば、破産によって口座に入出金された金額についての返済義務を免れる可能性があることになります。
早期の銀行預金口座の取引履歴開示請求の必要性
犯罪収益移転防止法違反については、売買ではなく、インターネットバンキングのIDやパスワードをだまし取られた場合などもあり、捜査機関も即時の身柄拘束に慎重になってきております。
もっとも、銀行預金口座の名義人は譲り渡しをした時点で、口座の管理権限を失っている場合が多く、口座の凍結までにどのくらいの金額が口座に入出金されたかわからないことが多いです。
特殊詐欺の被害として総額を把握することが示談の交渉にも重要となっており、弁護士を通じて銀行預金口座の取引履歴を開示請求し内容を確認することが重要です。
犯罪による収益の移転防止に関する法律 第28条 参照
1 他人になりすまして特定事業者(第二条第二項第一号から第十五号まで及び第三十七号に掲げる特定事業者に限る。以下この条において同じ。)との間における預貯金契約(別表第二条第二項第一号から第三十八号までに掲げる者の項の下欄に規定する預貯金契約をいう。以下この項において同じ。)に係る役務の提供を受けること又はこれを第三者にさせることを目的として、当該預貯金契約に係る預貯金通帳、預貯金の引出用のカード、預貯金の引出し又は振込みに必要な情報その他特定事業者との間における預貯金契約に係る役務の提供を受けるために必要なものとして政令で定めるもの(以下この条において「預貯金通帳等」という。)を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者は、一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、預貯金通帳等を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者も、同様とする。
2 相手方に前項前段の目的があることの情を知って、その者に預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同項と同様とする。通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同様とする。